放射線の健康影響(特に低線量被ばくの持続)に関する理解

-低線量被ばくに関する健康相談での基礎的参考資料-

 

 

目的 

 福島事故後の放射線健康被害の可能性については、多くの報道がなされています。しかし、何段階ものピア・レビュー(査読、専門家による第3者・相互評価)をへたWHO,ICRPなどの国際機関の指針や勧告、さらにそれらの一部のみを選んで翻訳した日本国内での公的発表と、週刊誌やネットで流れる玉石混交の雑多な情報のギャップは大きく、情報が氾濫していながら必要な情報が不足する主因となっています。低線量被ばくの健康影響はまだ定説のない分野ですが、国内で触れられることが多い国際機関の総合報告(2006年、2008年)以降も、チェルノブイリ事故関連で多くの疫学的報告がなされ、毎年研究成果が積み重ねられています。原爆被ばく者や医療被ばくでの疫学研究においても、新しい報告がなされていますが、福島事故後の日本国内での公的発表で、これらの新しい情報に触れられることは殆どありません。

 

低線量被ばくや核施設に関する疫学調査は、統計学的に有意差が出る場合でも、検出限界に近いことが多く、対象の選定や調査手法が生む差異、或いは統計分析の限界といった予備知識のない人には、誤解を生みやすい内容です。現在、保健所支援情報システム中の「放射線の健康影響に関する相談に対応する為のQA」や東京大学や福島大学の教官グループが作る原発災害支援フォーラムのサイト(TGF, FGF)など、原発事故による健康被害に関連した情報提供サイトは幾つかありますが、情報のギャップを埋める医学的情報が、十分に提供されているとは言えません。

 

福島事故後、「核戦争を防止し平和を求める茨城医療人の会」は、東海原発を県内に持ちJCO事故を経験した県の「反核医療人の会」として、原発と被ばくに関する勉強会を重ねながら情報の収集と提供を心がけてきました。そこで、この間の成果をもとに、放射線の健康影響、特に低線量被ばくによる確率的影響に関し、個々人が被ばくと健康被害について考え、被ばくの正当化・最適化の判断をするうえで参考となるような臨床的・疫学的情報を中心に、主に相談を受ける医療従事者向けに提供することとしました。(編集責任者:大前比呂思)第3者の評価や査読を受けた論文や報告(主として英文、一部は和文も収載)のうち、最近の研究成果やかつて国際機関や日本の公的報告書には全く反映されなかったものも含め、情報を共有できるサイトとして開設します。また本サイトでは、もっぱら疫学調査・臨床研究からの引用を中心とし、細胞生物学的研究からの引用は最小限にとどめています。

 

なお、ここで示される質問と回答の記述は、参考資料としての提供で、一般の方々に紹介される場合、そのままマニュアルとして利用されることは想定していません。Medline等の国際的に認知された医学情報検索サイトを利用すると、国内で予測される福島事故後の被ばく線量でも、健康被害の可能性を指摘する報告はかなりありますが、自らの価値判断にあたっては、できるだけ、原著での確認をお願いしたいと思います。チェルノブイリ事故の影響を、西ヨーロッパ諸国のホットスポットで論じた報告では、特に先天的障害に関する論文で、表題に? が入るものがあります。科学的思考が求められる医学論文で、このような表題は例外的で、原著者自身、そこでの見解が、過渡的な段階での仮説にとどまる可能性を示唆しているのでしょう。

 

また、本サイトの編集者は、なるべく自らの価値判断を避けての文献の収集と引用を心がけました。従って、個々の医療従事者が、自分の信ずる科学的根拠や臨床経験に基づいて各々異なる見解を持つことを否定するものではありません。一方、見解の違いについての論争も想定していませんが、明らかに編集者の科学的理解力や語学力の不足による誤解と思われる箇所については、指摘して頂けますと幸甚です。

 

 

 

問1 本サイトが参考にした論文や報告は、一般に言われる「科学的な確からしさ」からみてどこに位置しますか?

 

問2 100mSv以下の低線量被ばくと健康被害の可能性については、どのようなモデルがありますか?

   

問3 法的基準や労災の認定基準から見て、低線量被ばくの場合問題とされる線量は、どの程度でしょうか?

   

問4 放射線被ばくと関連した発癌は、どの時期から問題となりますか?

 

 問5 低線量被ばくによる悪性腫瘍の過剰発生は、100mSv以下では交絡因子も多くわからないとされていますが、有意差を検出できたとする報告ではどの程度ですか?

 

 

問6 チェルノブイリ事故後には甲状腺癌が問題となり、現在、福島では小児の甲状腺検診が始まっています。放射線障害による甲状腺癌には、どのような特徴がありますか?

   

問7 甲状腺癌以外では、どのような固形癌で放射線誘発による過剰発生が報告されていますか?

  

問8 放射線被ばくにより、悪性腫瘍以外にどのような疾患でリスクの上昇が報告されていますか?

 

問9 チェルノブイリ事故後にかなりの遺伝的障害や先天性疾患の発生が報告されたと聞きましたが、実際はどうなのですか?

  

10 いわゆるチェルノブイリ膀胱炎というのはどのような膀胱炎ですか。また、そこから膀胱癌へと進展するのですか?