問10 いわゆるチェルノブイリ膀胱炎というのはどのような膀胱炎ですか。また、そこから膀胱癌へと進展するのですか?

 

 

ウクライナの汚染地域において膀胱癌の増加が報告されており、この地域の膀胱癌発生のメカニズムは一般的な膀胱発癌と異なった経路で発症する可能性が示唆された。日本バイオアッセイ研究センターの福島昭治らにより、この汚染地域において、長期にわたるセシウム137による低線量放射線の慢性的被ばくに関連した膀胱癌の前癌状態として、増殖性の異型性変化を特徴とする膀胱の慢性炎症が報告された(文献1、2)。比較対象は、非汚染地域、0.5-5 Ci/km25-30 Ci/km2に住む住民の3つの群に分けられ、尿中のセシウム137の濃度は、それぞれ、0.29 Bq/l1.23 Bq/l6.47 Bq/lであった(文献3)。膀胱尿路上皮においてNF-κBp38 MAPキナーゼなどのシグナル伝達経路の発現上昇や成長因子受容体などの活性化を伴う酸化ストレスが生じたことによって慢性炎症が引き起こされ、前癌状態とされる増殖性の異型性膀胱炎に発展したものと考えられる(文献2、3)。増殖性異型性炎症から発癌というパターンは、感染症に起因する発癌も含め、発癌では一般的にみられる現象で、ビルハルツ住血吸虫感染による膀胱癌でも確認されている。慢性膀胱炎からの膀胱癌への進展に関する研究では、今後病理組織学的検索とオートラジオラフィーによる放射線の飛跡の確認をあわせて行うことで、内部被ばくによる放射線発癌を可視化できる可能性もある。

 

文献 

1) 逆システム学の窓Vol.41 チェルノブイリ膀胱炎長期のセシウム137低線量被曝の危険-児玉龍彦, 医学のあゆみ 238 (4): 355-360, 2011.

2) Possible distinct molecular carcinogenic pathways for bladder cancer in Ukraine, before and after the Chernobyl disaster.    Morimura K et al.     Oncology Reports 11 (4): 881-886, 2004.

3)   Urinary bladder carcinogenesis induced by chronic exposure to persistent low-dose ionizing radiation after Chernobyl accident Romanenko A et al.    Carcinogenesis 30 (11): 1821-1831, 2009.