問3 法的基準や労災の認定基準から見て、低線量被ばくの場合問題とされる線量は、どの程度でしょうか?

 

 

ICRPが公衆の人工的な公衆被ばくの限度としているのは、年間1mSvである。空間線量1.3mSv/3ヶ月(5.2mSv/年)がフィルムバッチを持った成人しか勤務できない事業所内の「管理区域」の基準であることは、医療関係者にとってはよく知られたことである(電離放射線障害防止規則第二章)。また、放射線施設を内部に持つ事業所と外部との「事業所境界」で250μSv/3ヶ月(1mSv/年)という基準は、年間1mSv というICRP勧告に合うものである。1997年に茨城県東海村でおきた動燃アスファルト固化処理施設における火災爆発事故では、事業所内の放射線量の増加と低下に応じて、電離放射線障害防止規則に則った事業所内の「管理区域」の拡大と縮小が順次原則的に行われた(科学技術振興機構 失敗知識データベース、原子力から)。

昨年度の厚労省による発表では、1976年以降に、原発関連で労災認定された悪性腫瘍11件では、白血病が6人で、累積線量5.2129.8Sv、多発性骨髄腫が2人で、各々65.070.0mSv、悪性リンパ腫は3人とのことである。現状の基準であっても、年間5mSv以上 で累積20mSv以上の被ばくがみられた場合、血液系悪性腫瘍については労災が認められる可能性が高い。高線量被ばくによる急性放射線症については、1999年の茨城県東海村JCOウラン加工工場での臨界事故で認定された。一方、心筋梗塞など基準がない病気では医師らによる検討会で因果関係が認められれば、認定される可能性がある。

現在、計画的避難区域以外では、除染が進む一方で、その限界も明らかになってきた。ICRPによる人工的な公衆被ばく限度は年間1mSvで、電離放射線障害防止規則では、妊娠中の被ばく限度を、内部被ばくによる実効線量で1mSvとしているが、このレベルまでの除染が、短期間では難しい地域もある。特に年間5mSv以上の空間線量が予測される地域では、法的に定められた管理区域の基準や今までの労災の認定基準から考え、問題とされる公衆被ばくを強いられていることになる。このように比較的空間線量が高い地域では、被ばくの正当化と最適化が、生活者1人1人についてより厳密になされねばならない。医療従事者には、種々の条件を考慮したうえでの個人の主体的判断を助けるような参考資料を適切に示すことが要求され、本サイトは多少ともその役にたつことを目指している。