要約

広島・長崎での原爆被ばく者での追跡調査、チェルノブイリ事故後の調査などから、若年者を中心に白血病や甲状腺癌(乳頭癌)がよく知られている。原爆被ばく者での白血病過剰発生は、被ばく２-３年後からみられ７年後にピークを示した。チェルノブイリ事故後の甲状腺癌は、４年後からみられ、小児では９-10年後、若年層では10数年後にピークを示した。成人では、未だに発症数が多く、好発年齢層を変えながら、過剰発生は続いている。固形癌については、10年以上してから過剰発生が見られるとの報告が多いが、医療被曝後のフォローアップ例も含め、被ばく後数年からの過剰発生を報告した論文もある。この場合、放射線は、遺伝子の変異だけではなく、多段階発癌の複数の段階で作用していると考えるべきで、前癌状態からの発癌をも促進しているのかもしれない。

解説

チェルノブイリ事故後の調査報告を中心に、一部医療被曝に関する文献を加えて概説する。チェルノブイリ事故後の報告（1991年）は、時期的にも早すぎ被害を過少に評価したとの批判も多い。長期経過をみたものでは、2006年にWHO報告書、2011年にUNSCEAR（国連放射線影響科学委員会）の報告書が出ている。以上は、主要な査読付き論文をさらに取捨選択しレビューしたものである。個々の論文については、観察結果のばらつきも大きいが、甲状腺癌以外での有意なリスク上昇については、代表的な総合報告書2006年（WHO）、2011年(UNSCEAR)では不明もしくは否定的としている（文献1、2）。ただし、査読付き英文医学誌の掲載論文に限っても、100mSv以下の被ばく後、甲状腺癌以外でも早期からの過剰発癌を指摘する報告は複数ある。また、従来の総合報告書では、チェルノブイリ事故の後始末に従事した労働者:リクビダートルでも、被ばくよる健康被害について否定的であったが、最近は血液系腫瘍を中心に健康被害を認める報告がなされている（文献3）。

癌登録制度が早くから完備されたスウェーデンでは、発癌に関係する交絡因子の多いストックホルム周辺の都市部を除いた疫学調査の結果、ホットスポットとなった地域で、1986年のチェルノブイリ事故後数年から、過剰発癌が報告されている（文献4、5）。また、10mSv以上の被ばくで男児の急性リンパ性白血病の有意なリスク上昇をみた報告(観察期間：1987－1992年)や40mSv以上の被ばくで乳癌の有意なリスク上昇の報告（観察期間：1997－2001年）が、ウクライナやベラルーシからなされている（文献6－8）。 

医療被曝による発癌リスクについては、小児期のCT検査後15年以上のフォローアップ期間中に白血病や脳腫瘍で過剰発生をみた報告がある一方、成人では心カテ後10年間のフォローアップ中に10mSvにつき３％ずつのリスク増加（全発癌）を報告する論文もある（文献9、10）。

放射線が、多段階発がんでの様々な段階で関与しているとすれば、免疫能が低下している人を中心に比較的早い時期から非特異的な発癌の増加がみられるかもしれない。

文献

1)   Health Effects of the Chernobyl Accident and Special Health care Programmes. Report of the UM Chernobyl Forum, Expert Group “Health”. Editors: Bennett B, Repacholi M & Carr Z. Genova 2006.　World Health Organization.

2)   Health effects due to radiation from the　Chernobyl accident.　Sources and Effects of Ionizing Radiation, Volume 2, Annex D p45-220, UNSCEAR 2008 Report on the General Assembly with Scientific Anneexes. New York 2011. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation.

3)   The Chernobyl accident--an epidemiological perspective.　Cardis E & Hatch M. Clin Oncol (R Coll Radiol). 23(4):251-60, 2011

4)   Increase of regional total cancer incidence in North Sweden due to the  Chernobyl accident ? Tondel M et al,    J Epidemiol Community Helath 58:1011-16, 2004.

5)   Increase of incidence of malignancies in Sweden after Chernobyl accident . –A promoting effect ? Tondel M et al,     Am J Industrial Med 49:159-168, 2006.

6)   Radiation-induced leukemia risk among those aged 0-20 at the time of the Chernobyl accident: a case-control study in the Ukraine, Noshchenko AG et al,  Int J Cancer 99:609-18, 2002.

7)   Radiation-induced leukemia among children aged 0-5　years at the time of  the Chernobyl accident.

　 Noshchenko AG et al,   Int J Cancer 127:412－26, 2010.

8)   Breast cancer in Belaraus and Ukraine after the Chernobyl accident, Pukkala E et al,  Int J Cancer. 119:651-8, 2006.

9)   Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of  leukaemia and brain tumours: a retrospective cohort study.　Pearce MS et al,  Lancet 2012 Jun 7.

10)   Cancer risk related to low-dose ionizing radiation from cardiac imaging in patients after acute myocardial infarction.  Eisenberg MJ et al,  CMAJ . 183:430-6, 2011.

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