問5 100mSv以下の被ばくでは、交絡因子の影響も強く悪性腫瘍の過剰発生は確認できないとされていますが、有意差を認めた報告はありますか?
被曝線量がはっきりしているコホート研究は、原爆被ばく者やチェルノブイリ事故後の報告より、むしろ医療被曝における報告で多い。診断用X線の照射による低線量被ばくの健康影響については、従来から小児を中心にコホート研究や症例・対照研究がされてきたが、発癌頻度の低さと対象人数の少なさもあって結果のばらつきが大きく、影響ありとの報告が複数ある一方で、影響は検出できないとした報告も少なくない(文献1-4)。悪性腫瘍の発生頻度が低い小児と、Common Diseasesの一つといってもいい高齢者では、もともとの癌発生数が全く異なるので、リスク比の上昇だけではなく、実数も併せて示した方がリスクをより実感しやすい。そこで、コホートの規模が最も多く検出力も高いと判断された、最近の主なリサーチ結果について実数も併せて示す。
CT検査を受けた小児の例(複数回受けた例もある)では、15年間の観察期間で、178,604人中に74人の白血病発生、176,587人中に135人の脳腫瘍発生をみた(文献5、6)。この報告での一般と比較したリスク比は、白血病では約60mSv で3、脳腫瘍では50mSvで3だが、累積線量10mSv程度でも明らかな量-反応関係は認められる(文献5)。成人での調査では、心カテ後に82,861人をコホートとした調査があるが、対象の平均年齢が63.2才と高かったこともあり、10年間の観察期間に12,020人で癌発生が認められた(文献7)。この調査でも、低線量での量-反応関係は明らかで、累積線量10mSvの増加につき3%ずつのリスク増加(全発癌)が報告されている(文献7)。医療被曝のリスクについては、現在10カ国以上国で、十万人規模のコホート調査が進められており、2013年から16年にかけて成果が出る予定である(文献6)。
参考 リスク比,過剰リスクの求め方など
被ばくと発癌を例にとると、以下の算出式となる。リスク比は、癌発生数/被ばく者数 ÷ 癌発生数/非被ばく者、過剰リスクは、癌発生数/被ばく者数 - 癌発生数/非被ばく者 で求められる。低線量医療被曝と発癌の関連については、小児では元々の発癌可能性は非常に低いもののリスク比の増加は多いこと、成人では元々発癌の確率は高いがリスク比の増加は少ないことがわかる。文献5)7)を基礎にして大雑把に表現すれば、20mSv程度の 低線量被ばくの結果、10-15年の期間中に、小児では1万人に3人、5人だった白血病、脳腫瘍の発生が、4人、7人程度となる。成人(平均60歳程度と比較的高齢)では、1万人のうち1400人が癌を発症していたのが1480人での発症に増加、というイメージになるだろうか。
文献
1) Risk of childhood cancer from fetal irradiation. Doll R & Wakeford R. Br J Radiol. 70:130-9, 1997.
2) Diagnostic X-rays and risk of childhood leukemia. Bartley K et al, Int J Epidemiol 39:162-37, 2010.
3) A cohort study of childhood cancer incidence after postnatal diagnostic X-ray exposure. Hammer et al, Radiat Res 171:504-12, 2009.
4) Early life exposure to diagnostic radiation and ultrasound scan and risk of childhood cancer : case-control study. Rajaraman P et al, Br Med J 342:d472, 2011.
5) Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukaemia and brain tumours: a retrospective cohort study. Pearce MS et al, Lancet 2012 Jun 7.
6) Beyond the bombs: cancer risks of low-dose medical radiation Comment to 4) Lancet 2012 Jun 7.
7) Cancer risk related to low-dose ionizing radiation from cardiac imaging in patients after acute myocardial infarction. Eisenberg MJ et al, CMAJ . 183:430-6, 2011